農業
作物の栽培をする農業は、約1万年以上前に、世界各地でそれぞれ別個に始まったと考えられています。レバントと呼ばれる中東のシリア周辺(肥沃な三日月地帯の西半分)の遺跡では、最古級の農耕の跡(ライムギ)が発見されています。中国の長江流域では、稲作を中心とした農耕が始められていたことが発掘調査で確認されています。
農業は人類の文明発達の鍵であり、植物(作物)の栽培(農耕)と動物を家畜化すること(畜産)により、農業に携わる人達が消費する以上に食糧を生産することが可能となり、人口の増大をもたらしました。
「農耕の基本原理は、正しい時を選び、土を粉砕し、その肥沃度と水分に注意し、早くに鍬を入れ、早期に収穫することである。」 (原文:凡耕之本、在於趣時、和土、努糞澤、早鉏早穫)とあるのは、紀元前1世紀に書かれたと言う中国で最も古い農業書『氾勝之書』の最初の文章です。このように農民は一つの場所で、長い時間働くことが必要でした。
有史以来の人類の大半がある時代までは農業従事者でした。現代では工業化社会へ移行して農業が機械化され、少ない農業従事者でも耕作が行えるようになったため、その数を減らしています。一般に先進国では総人口の数%に過ぎない農家が、他の人々のための食料を生産しています。
一方世界全体で見れば、家族やそれに近い単位での農業は依然として重要な存在であり、国際連合食糧農業機関(FAO)は2019年に「家族農業の10年」をスタートさせています。
アグリテック
農業の余剰農産物は、貯蔵すること、それを管理する立場、作物を供給する立場に社会を分別し、結果として様々な職業が生まれ、身分の格差も生じました。ヨーロッパで体系化された自然科学は、人類の知識と能力を飛躍的に進歩させ、人間は徐々に自然法則を解いていきました。これらの知見を手がかりに18世紀にはイギリスで産業革命が起きました。
このように人間は、過去250年余りにわたって農地から工場へ、そして工場から事務室へと仕事場を移してきました。近代以前は人間の資産は肉体労働力だったのが、近代に入ってからは知識労働力に取って代わられてきました。
今日の工場や事務室では、最先端の様々な技術とその製品、とりわけエレクトロニクス、コンピューター、通信、情報処理、人工知能などの技術(テクノロジー)を駆使しています。この今日の工場や事務室で活用されている最先端のテクノロジーとそれを利用する知識や知恵を、現代の農業に戻すのがアグリテック(Agri Tech)です。
IoT
情報化が激的に進む21世紀社会では、情報の原点の一つである”データ”が大きな役割を果たすと考えられています。
IoT(Internet of Things:インターネット・オブ・シングス)とは、「インターネットに多様かつ多数の物が接続され、それらの物からデータが送信され、又はそれらの物にデータを送信する」ことです。農業でのIoTは、農業の様々な物、例えば農場、そこの天候、土壌、栽培する作物、家畜、農機具、収穫した作物や畜産物、さらには作業するヒトもインタ―ネットに繋がり、データとなり、農業の資産とすることができるようになることです。
定説では、農業の発明は人類の生活を向上させたと伝えられてきましたが、一方で農民は狩猟採集民よりも長い時間働き栄養摂取も乏しくなったことが考古学の研究で明らかにされています。現代では、このようなことは改善されているものの、労働集約的な仕事であることは変わりません。
過去農機具が開発され、農作業の効率が大幅に上がってきました。欧米では、産業革命で発明されていた動力を用いた農業機械が、19世紀頃から続々と登場してきました。日本では、農業機械化促進法(1953年)の後押しなどを受けて、終戦後の復興から動力農業機具が広く利用されるようになりました。
アグリテック、さらにIoTは人手による労力負担の軽減という次元を超え、データを活かす農業を可能とすると期待されます。